2013年6月17日月曜日
「三姉妹〜雲南の子」:
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excite ism エキサイトイズム:2013年5月23日 11:50
http://ism.excite.co.jp/art/rid_E1369194817074/
今週末見るべき映画: 「三姉妹〜雲南の子」
一昨年、中国のワン・ビン(王兵)監督の「無言歌」を見た。
1960年代、ゴビ砂漠の収容所を舞台に、囚人たちの過酷な実態をドキュメンタリー・タッチで描いた劇映画だが、反右派闘争の悲劇が、徹底的に伝わる傑作だった。
ほぼ同じ頃、「ワン・ビン・レトロスペクティヴ」が開催され、「鳳鳴ー中国の記憶」を見た。
反右派闘争の悲劇を生き抜いた老女、鳳鳴の語りのみを、3時間を超える長尺で記録したドキュメンタリーだ。
いまの中国に、このような、いわば反権力、反政府映画を撮る作家がいることに驚いた。
国家検閲とは関係のないところでの仕事だから、可能だったのだろう。
「無言歌」は、フランスとベルギーの出資で、「鳳鳴ー中国の記憶」は、フランスの出資である。
中国での公開は初めかから意識していない。
ワン・ビンは、残したい、撮りたいと思う歴史と現実を撮り続けているだけである。
昨年の東京フィルメックスで上映され、話題を呼んだワン・ビンの新作ドキュメンタリー「三姉妹~雲南の子」(ムヴィオラ配給)が、このほど公開される。
舞台は、中国で最も貧しいといわれている雲南省の奥地、約80戸が暮らす標高3200メートルにある村だ。
10歳、6歳、4歳の、まだ幼い姉妹がいる。
母親は家出、父親は出稼ぎで不在。
長女は、母親代わりに、妹たちの世話をする。
食事は、主に、祖父や伯母の厄介になる。
長女は、豚や羊、鶏などの世話をし、畑仕事を手伝う。
父が、出稼ぎから戻ってくる。
父と娘たちは、町で暮らすことを考えるが、経済的な事情もあって、長女は村に残ることになる。
麺を茹で、じゃがいもを食べる。
服は、ほぼ着のみ着のまま、布団も汚れている。
靴はボロボロ。
カメラは、そういった貧しい暮らしの日常を、淡々と写していく。
高い山地である。もやがかかり、風は吹き荒れる。冬はさぞかし寒いと思う。
このような場所でも、人は住み、生きている。
上映時間は2時間33分、長くは感じない。
効果音や、余計な説明は一切、ない。
改革開放、経済成長を遂げつつある中国の片すみの現実を、ただ提示するだけである。
資料によると、撮影された村は、雲南省の政策で、貧困を解消するために、全村移住が決まっているという。
2013年2月現在、いつ、どこに移住するかは未定、村人たちにはなにも知らされていない。
同じ中国のジャ・ジャンクーは、「長江哀歌」、「四川のうた」(いずれも本欄で紹介)など、数々の傑作を撮り、今年のカンヌ映画祭では、「ア・タッチ・オブ・シン」を出品。
中国で起きた殺人事件や自殺を題材に、現代の中国を描いたようだ。
ワン・ビンもまた、この「三姉妹~雲南の子」で、中国寒村の現実と貧困の底辺を熟視した。
ワン・ビンは、この4月に来日、記者会見で聞いてみた。
「いまいちばんの興味は?」。
「長江上流の未知の場所の歴史と現実」
と、次回作の構想を明かす。
政治の話ではない。
シンプルに現実を切り取った軌跡である。
いったい、人が生きるとはどういうことなのか、ひいては、人間の存在とは何なのかといった根源的な問いを、ワン・ビンは、深く、重く、静かに提出する。
父が、妹二人を連れて、再び出稼ぎに行く。
取り残された長女が、ひとり、じゃがいもを食べる。
長回しのカメラが、じっと、長女を捉える。
映像の力だろう。
ひとつのショットだが、語る意味は多く、深い。
映画の中で、長女は、よく咳をする。重い病でなければよいのだが。
本作の公開に合わせて、ワン・ビンのドキュメンタリー2作のDVDがリリースされる。
デビュー作「鉄西区」(1部・工場・240分、2部・街・175分、3部・鉄路・130分の3部構成)と、「鳳鳴ー中国の記憶」(183分)だ。
発売は紀伊國屋書店。
どちらもドキュメンタリー映画の歴史に残る傑作と思う。
【Story】
まだ幼い三人の姉妹がいる。
長女の英英(インイン)は10歳、次女の珍珍(チェンチェン)は6歳、三女の粉粉(フェンフェン)は4歳。農村や少数民族地域では、一人っ子政策は適用されない。
インインは食事の支度をする。
チェンチェンは、フェンフェンを蹴る。
泣き出すフェンフェン。
土間のような家に、最小限の家具、藁を敷いたベッドだ。
三人の身なりも、貧しさを物語っている。
三人は、伯母の家に行く。
従弟の小甫(シャオフー)は9歳だ。
貧しいけれど、テレビはある。
伯母の朱福蓮(チュ・フーリェン)は、じゃがいもを選別している。
「食べ物を無駄にするな」と伯父。
チェンチェンの長靴が破れたせいか、足に怪我をしている。
インインはフェンフェンの背中のしらみをつぶす。
鎌で鉛筆を削ったインインは、教科書を開き、ノートに写す。草を刈るインイン。
じゃがいもを洗い、運ぶ。
茹でたじゃがいもを踏みつぶして、家畜の餌にする。
夜、みんなでテレビを見ながら食事。
寝る用意をするインイン。
「ここは湿っていて、ふとんも冷たい」とチェンチェン。
朝、火をおこし、インインはボロ靴を乾かす。
32歳になる父、孫順宝(スン・シュンパオ)が帰ってくる。
父は、フェンフェンを膝に乗せて、手を洗ってやる。
もう何年も手を洗っていないとチェンチェン。
インインは、包丁を手に畑に入り、キャベツを切る。
埃だらけのテーブルを準備して食事。
祖父は、息子を気遣い、「2000元出して、仲人に何とかしてもらおうか」と切り出す。
麺を茹でながら「嫁は戻らないか?」と祖父。
「行方知れずさ」と父。
麺が茹であがる。
祖父、父、子供3人が食事する。
「インインはわしと一緒に残ればいい」と祖父。
インインは箸を洗い、食器を洗っている。
インインに、「お前はわしとこの村で暮らそう。飯作りと家事は二人で助け合って」と祖父。
「寂しいな」と呟く父に、「平気だよ」と答えるインインだが、表情は複雑で、寂しそう。
「ここで学校に通う。百元あれば、生活費はしばらく足りる。伯父の家で世話にならずに済む。父さんはすぐに戻るよ。町は生活費が高いし、稼ぎが悪いと…」と祖父。
「金がなきゃ、歩いてでも帰って来るさ」と父。
祖父は「インインの学費のほうが大変だ。子連れの出稼ぎで3人の食いぶちは重荷だろう」と祖父。
出発の前夜、インインは、フェンフェンの背中や服についたシラミをとってやる。
2010年11月。
インインたちは、小学校で「梅蘭芳 芸を学ぶ」を勉強している。
小学校の前に物売りがいるが、お金のないインインは、物欲しそうに見ているだけ。
インインの男友達が、燃料にする馬の糞を集めている。
祖父は、インインに、「勉強よりも家の仕事が大事」と言う。
収穫のお祝いには、ご馳走が出る。
豚を捌いて、親戚が集まっての宴会になる。
農村復興や医療保険の支払いなどが話題に出るが、結論、解決策は、ない。
出稼ぎに出た父が戻ってくる。
子守の女性がいっしょだ。
大人たちは畑仕事、女性や子供たちは、洗濯をする。
風が吹き渡る。日常は何も変わらない…。
「三姉妹〜雲南の子」
5月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
(c)ALBUM Productions, Chinese Shadows
フランス、香港 / 2012 / 153分/16:9/stereo
監督:ワン・ビン
配給:ムヴィオラ
文/二井康雄
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【そこそこ、ほどほど】
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